2.5.自己誘発レドックスサイクル
レドックスサイクルは近接する二つの電極を別々の電位(一方の電極を酸化電位、他方を還元電位)に設定した場合に生じる現象であるが、特殊な電極構成をとることによって一つの電極の電位制御するだけでレドックスサイクルを起こすことができる15。
特殊な電極構成とは、電位制御する微小電極の近傍に大きな面積の導電体(マクロ電極)が配置されている場合である。
微小電極の周囲が絶縁体の場合、微小電極で生成した還元体は濃度差を解消しようと濃度勾配に従って自然拡散していくだけである(図2)。ところが、微小電極の近傍にマクロ電極が配置されている場合、生成した還元体はマクロ電極まで拡散した後、マクロ電極上の微小電極に面した点で酸化され、同時にマクロ電極上の微小電極から離れた点では、還元反応が誘発される。この時、酸化反応によって生じた電子は、還元反応で消費されるために、マクロ電極内部を電子が移動、即ち電流が流れることになる。
このようにマクロ電極上の両端で逆反応が生じるのは、微小電極で生成した還元体の濃度勾配を解消するためであるが、還元体の自然拡散による過程よりも、マクロ電極内での電子の移動による過程の方が圧倒的に速く、支配的になる。さらにマクロ電極で生成された酸化体は、微小電極へと拡散し、再還元されるレドックスサイクルが誘発される。
この自然に誘発されたレドックスサイクル(自己誘発レドックスサイクル)のために微小電極のみの電位制御で限界電流が増幅される(図2)。この自己誘発レドックスサイクル現象は、微小円形電極が絶縁体の中に配置されている電極と、微小円形電極がマクロ電極のなかに薄膜を隔てて配置された電極の双方で得られる限界電流値の比較よって確認できた。
後者の微小電極のみを電位制御して得られた限界電流値は、前者の電極で得られた限界電流値よりも数倍大きく、後者のマクロ電極も電位制御して人為的にレドックスサイクルを発現させた場合の限界電流値に等しかった。
さらにより直接的な確認として、マクロ電極内を流れる電流を測定することであるが、これはIDA の一方のくし形電極を別のマクロ電極と電流計を介して結線することで可能になった。自己誘発レドックスサイクルが発現している時の電流値は、IDA をツインモードで測定した時の限界電流値に等しかった。
また、IDA 電極とマクロ電極を別々のセルに収容し、セル間を塩橋で接続したツインセルにおいても自己誘発レドックスサイクル効果は確認することができた(図6a)。
ツインセルはIDA とマクロ電極で互いに異なる活性種の反応で自己誘発レドックスサイクルを発現させることができるという特徴を有する。