2.6.変換ストリッピング法
マクロ電極を収容しているセルの酸化還元物質を析出性のものに置き換えても自己誘発レドックスサイクルを起こすことができる。とくに電極の電位によって析出、溶解の制御が可能な重金属イオンやハロゲンイオンを用いることで以下に示すような検出電流の変換、積算が可能となった16、17。
サンプルをIDA 側のセルに収容し、析出性物質をマクロ電極側のセルに収容し、IDA の一方のくし形電極の電位を制御してサンプルの電解(前電解)を行うと(図6b)、自己誘発レドックスサイクルのためにマクロ電極では析出反応が誘発される。その析出は、電荷の保存則より、くし形電極でのサンプルの電解量に等しい。
言い換えると、サンプルの検出電流を別物質の析出電流に変換することができたわけである。さらに、サンプルの電解を続ける限りマクロ電極で析出反応が続くために、サンプルの長時間電解は、大量の析出をもたらす。つまり、検出電流を時間積分することができたわけである。マクロ電極に析出した物質の析出量は通常のストリッピング法で定量できる(図6c)。
これはマクロ電極の電位を掃引した時に得られる電流ピークを測定することによってなされる。ピーク面積より全析出量が、従って、サンプルの全電解量が定量できる。サンプルの前電解中は定常電流が流れているとすると、全電解量、前電解時間およびIDA の形状で決まる限界電流値からサンプルの濃度を知ることができる。
この分析法はサンプルの検出電流を別物質の析出電流に変換し、析出物質を通常のストリッピング分析で行うことから、変換ストリッピング法と命名したが、この分析法は、二段階の電流増幅のために極低濃度の可逆な酸化還元物質の定量を可能にしている。つまりレドックスサイクルによる第一の電流増幅、析出物質の時間積分による第二の増幅効果である。
セルを二つに分離し、その間を塩橋で電気的に接続した。左セルにくし形電極、右セルにマクロ電極を配置した。
(a)2セル系においても自己誘発レドックスサイクルは発現し、くし形電極とマクロ電極間を流れる電流を観測することができる。
(b) 右セルの酸化還元物質を重金属イオンのような電極に析出する物質に変えても、自己誘発レドックスサイクルは発現し、左セルでの反応量と右セルでの析出量は等しい。
(c) マクロ電極の電位を制御することで(b) で析出した重金属イオンを溶解させることができる。溶解量は左セルで行った反応量に等しい。