1-10 吸着
クロノクーロメトリーは電極表面に吸着する電気化学 活性種の研究に特に適しています。事実、この手法が開発されたきっかけも吸着の研究でした。吸着種を電解するのに使われた電荷は、液中の成分の電解に使われた電荷と区別されます。即ち、吸着種は電極上にあり瞬時に電解されます、溶液種が電解されるためには電極まで拡散しなければなりません。電位ステップの結果、測定される全電荷(Qtotal) は3つの寄与から構成されます。それは、
(a)電気二重層のチャージング(Qdl)
(b)吸着種の電解(Qads)
(c)溶液種の電解 (Qdiff)
です。ここでΓOはOの吸着量(mol/cm3)です。各成分の寄与は図1-5A のようになります。Qdiffは式(5)で表わされ、t1/2 に対するプロットは直線になります。
その勾配は 2nFACODO1/2π-1/2です。式(7)、 (8)の第2項は吸着種からくる電荷です。吸着種は電極上にあるので電位ステップで直ちに電解されます。従って、この項は図1-5A の Qads に示すように時間に依存せず一定です。Qdlはセル電位を Eiから Esへ移すのに必要な電荷です。この項も図1-5AのQdl で表わされるように基本的には瞬時に起こります
(但し図1-4の電極の時間が短いと仮定する)。
Qtotalは図1-5の曲線 Qtotalで示されるように Qdiff, Qads Qdl の加算で与えらます。式(8)からわかるように t1/2 に対する Qtotal のプロットは図1-5Bに示すように切片がnFAΓO + Qdl に等しい直線になります。Qdl がわかるならAの既知な電極に対してΓO は切片から計算されます。EiからEsへの電位ステップに対する Qdl は支持電解質のみを含む実験から測定できます。
しかし、このやり方では吸着種の存在の有無に拘わらず、Qdl は同じであると仮定しているが、この仮定があてはまらない場合もあります。ダブルポテンシャルステップ法でQdlに対するよりよい補正が得られる場合があります。
図1-6には2つのケースについてダブルポテンシャルステップクロノクーロメトリックプロットが描かれています。フォワードステップについては t1/2に対して、リバースステップについては τ+(t-τ)1/2-t1/2に対してプロットしました。
プロット1、2は反応物も生成物も吸着しない場合で両プロットの切片は等しく、Qdlに対応します。プロット3、4は反応物が吸着し、生成物は吸着しない場合です。リバースステップに対するプロット4の切片は吸着反応物があってもQdlに一致します。プロット3の切片は吸着反応物があるので QdlとQadsの両方を含んでおり、プロット3と4の切片の差は Qadsに等しくなります。
1,2;反応種又は生成種の吸着のない場合、3,4;反応種の吸着があり生成種が吸着しない場合