監修: 渡辺 訓行
バックグラウンド電流
電気化学以外でもバックグラウンド電流(背景雑音電流)に出会いますが、ここでは電気化学に関連して記述します。電極には目的とするファラデー電流の他に、望まない電流が流れます。電極と溶液の界面には電気二重層が形成されます。即ち、電気容量(キャパシティー、コンデンサー)です。コンデンサーに蓄えられる電荷は容量×電圧です(電荷=容量×電圧、 Q=C×E)。電極電位を変化させるということは電位に時間変化を与えることです。つまり電荷が時間変化をする、即ち、電流が流れるということになります(dQ/dt=CdE/dt)。これが容量電流または充電電流というものです。電極電位が時間に対して変化する限り、容量電流は避けられないのです。これがバックグラウンド電流の原因の一つです。
その他に、電極表面自身の酸化または酸化された表面の還元、電解液中の不純物の酸化還元、吸脱着などが加わります。グラファイトを基本とする炭素系の電極(グラッシーカーボン、パイログラファイト等々)では酸化された表面は部分的にカルボニル、キノン、フェノール、カテコール、ラクトン、カルボン酸などの官能基型になっているといわれています。これらの官能基の酸化還元が広い電位範囲で起こり、ファラディックなバックグラウンド電流となります。容量電流は一般に短時間で終息する性格のものですが、電極表面の酸化還元の場合は長時間かけて起こりますので、定電位測定(アンペロメトリック、液体クロマトグラフの検出器の場合など)でも、小さなバックグラウンド電流が減衰しながら、いつまでも続くことになります。