電気化学測定に使用する参照電極の種類とその用途、選択方法についての基礎的な内容です。
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これから電気化学を始める方のための参照電極の基礎-その1:導入
電気化学では特定の電極反応を起こさせるために作用電極に、ある電位をかけて酸化または還元反応を起こさせる。
この際、作用電極の電位を正確に知る必要がある。このために電位基準として参照電極が用いられる。
参照電極は
- 金属電極(銀、水銀、白金など)
- 内部電解質
- 液絡部(セラミック、バイコールなど)
と、これら3つを内部にまとめる容器からなっている。
容器は多くは筒状のガラスで、その先端に液絡がある。液絡はポーラスでバイコールガラスやセラミックが使われ被検液との電気的導通が図られている。容器はガラス以外に耐薬品性のためにテフロンなども使われる。参照電極に必要な要件は長時間に亘って一定の安定な電位を示すことである。そのためには参照電極には電流を流さないことが望ましい(電流が流れると電位変化が起こる可能性がある)。
このためには、高いインピーダンス回路につなぐのが望ましい。ポテンショスタットには被検液との電気的導通のために参照電極の接続端子が必ず有る。その端子は高入力インピーダンスのオペアンプの入力端に繋がれている。それ故、参照電極には電流が流れることができない。その端子に白金線や銀線をつなぐだけでも被検液との電気的導通はとれるので、計測などの実験は行えるが、電位の安定性や再現性の保証は無い。一定電位を示す参照電極をつなぐことで正当な電気化学が行えるということになる。
参照電極には電流を流さないが、それ自身のインピーダンスは小さな方が良い。ポテンショスタットは自動制御系であり、参照電極がその中に組み込まれるわけで、インピーダンスが大きいとポテンショスタットの応答速度を低下し(帯域幅を狭くし)、不安定化する。参照電極の構造上液絡部によるインピーダンスは大きくなる(典型的には数百Ω~数kΩ)。このため液絡部に析出物はできるだけ避けなければならない。
電位の基準としての参照電極には水素電極や飽和甘汞電極、銀塩化銀電極が知られ、使われている。水素電極が標準状態で示す電位をゼロと約束し電位スケールの基準(一次標準)とする。標準水素電極は気体の水素分子を常時、流す必要があるので、通常の測定において使われることは少ない。そのため2次標準として標準水素電極に対して一定の電位を示す甘汞電極(キャロメル型参照電極とも呼ぶ)や銀塩化銀電極がもっぱら使われている。可逆水素電極(RHE)と称するものも文献でよく見かける。
参照電極は何故、一定の電位を示すか。それは、電極の表面で可逆な酸化還元反応が起こり、それが平衡状態にあるからである。その反応とは次式にあげるようなものである。
- 水素電極 H2 ⇔ 2H+ + 2e (0 V)
- 甘汞電極 Hg + Cl- ⇔ 1/2Hg2Cl2 + e (~+0.24 V)
- 銀塩化銀電極 Ag + Cl- ⇔ AgCl + e (~+0.20 V)
このような、平衡状態にある酸化還元系を構成できる電極を参照電極と称する。このような電極は電位を外部的に変えることはできず(分極できない)、非分極性電極と呼ばれる。これに対して白金、金、炭素電極などは、ある電位範囲において外部から電位を変えることが可能であって(分極できる)、分極性電極と呼び、作用電極や対極として用いられる。
各種の参照電極の標準電位の相対的電位関係は変わらないので、用いられた参照電極を特定することにより、時や場所が異なっても普遍的な電位の比較が可能になるということに大きな意味がある。参照電極は、分野や時代が違うと比較電極とも照合電極とも呼ばれることがある。このような参照電極の仕組みや種類、特徴、問題点、実際上の諸々の関連する事柄などを、数回に分けて記述する。
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