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電気化学測定に使用する参照電極の種類とその用途、選択方法についての基礎的な内容です。
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これから電気化学を始める方のための参照電極の基礎-その5:非水溶媒系電極

 有機溶媒中での測定では、これまで挙げた水系の参照電極(主として甘汞電極や銀塩化銀電極)を、塩橋(塩橋に関連してこのシリーズで後述する)を介して用いることができる。文献でも非水系におけるレドックス電位の表記に、水系の参照電極を基準にした例が多く見られるが(例えば、vs SCE 等と)、非水系と水系の液間電位については大抵の場合、記述がない。
だから、文献上における比較は容易ではない。非水溶液系の測定においては、水や塩化物イオンの混入を避けなければならないことが多い(注意しても水の混入は起こるのではあるが)し、定量化が難しい余分の液間電位を導入することになるので、できたら避けた方が良い。

一般には、有機溶媒系の参照電極にはAg/Ag+電極が用いられる。内部液溶媒にはアセトニトリルを使うことが多いが、被検液に用いる溶媒も使われる。内部液の支持塩として有機系の塩(テトラアルキルアンモニウムR4N+と過塩素酸アニオンClO4-、6フッ化フォスフェートPF6-、4フッ化ボレートBF4-などからなる塩)と銀イオンの供給源として0.01 M程度の濃度の銀塩(硝酸銀や過塩素酸銀、または支持塩の対アニオンなど)を溶解させる。その内部溶液に銀線を入れたものが銀イオン電極である。この電極の電位の長時間にわたる再現性や安定性はそれほど良くはない。溶媒によって相当、基準電位が変わるので、それのみでレドックス電位を特定するのは難しい。と言うことは、レドックス電位の文献値等の比較が必ずしも容易ではないことになる。
非水系の測定においては、この電極に限らず、一般には、目的溶液の測定の前または後で、内部標準としてフェロセンやビスフェニルクロム(I)を加えた測定を行うことをIUPACは勧告している。フェロセンやビスフェニルクロム(I)のレドックス電位は溶液系に大きくは依存しない(レドックス反応のサイトであるフェロセンではFe2+/3+がペンタジェニル環に、ビスフェニルクロム(I)ではCr+1/0がフェニル環に挟まれて溶液系から効果的に遮蔽されるため)と言われており、フェロセンやビスフェニルクロム(I)とのレドックス電位の差で比較するのが奨められる。

この電極を用いる時は、内部標準(フェロセンまたはビスフェニルクロム(I))のレドックス電位を新たな電位基準とするわけである。これらの内部標準物質のレドックス電位は溶媒によってそれほど変わらない。ビスフェニルクロム(0/I)の場合はテトラフェニルボレート塩として被検液に加える。フェロセンのレドックス電位は標準水素電極スケールで約+0.7 Vであり、ビスフェニルクロム(0/I)とフェロセンのレドックス電位の差は1.15 Vでフェロセンの方が貴(+)である。被検液に予め添加しておくか、測定後に添加して再度測定するか、どちらかのやり方で測定する。フェロセンのレドックス電位を介在させて水系との電位の相対的な比較は可能となる。

水系における銀イオンの標準酸化還元電位(Ag+ + e ⇄ Ag)は0.7991 Vが知られているが、有機溶媒による溶媒和の違いなどから大幅に変化するため、この値はあまり参考にならず、異なる溶媒間の比較は難しい。例えば、ジクロロメタン中では0.65 V,テトラハイドロフラン中では0.41 V、アセトニトリル中では0.04 Vという文献値がある。極性溶媒中では酸化体(カチオン)の方が還元体(ゼロ価)より安定化されるため電位はより卑(負)方向にシフトすることになる。
このようにサイズの小さな銀イオンに対する溶媒和効果の溶媒依存性が大きいので、銀イオン電極の電位を特定することはなく、唯、参照電極として使うだけであって、あくまで内部標準の電位を基準として表現することが基本となっている。また、ジメチルホルムアミド(DMF)やジクロルメタンは、銀イオンとの反応性や溶解性の理由で適さない。

非水系では擬似参照電極という遣り方もある。白金線を被検液に漬け、ポテンショスタットの参照電極端子につなぐだけである。電位の特定と安定性は保証できないが、液間電位は生じないし、インピーダンスも低いので一つの選択肢ではある。当然であるが外部に発表などする場合には内部標準が必要になる。

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