電気化学測定法である電気化学インピーダンス分光法(EIS)についての基礎的な内容です。
その他はこちら
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(1):等価回路によるEIS結果解析の基本
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(2):周波数変化とEIS測定
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(3):回路素子のナイキストプロット
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(4):ワールブルクインピーダンス
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(5):CPEのナイキストプロット
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(6):3つの素過程からなる系を考える
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(7):ネルンスト拡散
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(8):有限拡散
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(9):色素増感太陽電池(DSSC)のEIS-1
- その7:電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(10):色素増感太陽電池(DSSC)のEIS-2
電気化学インピーダンス分光法(EIS)について(11):まとめ
前回は参照電極を用いる3電極方式の話であった。作用極と対極の特性が大いに異なる場合には、それぞれの情報を得ることが出来るので意義は大きい。リチウムイオン電池や燃料電池では2つの極の特性が似通っているので、3極式測定ではそれほど差異が明瞭に示される例は少ないので文献を挙げるにとどめておきます 1) 。
インピーダンス測定は比較的、時間がかかる。周波数の逆数に比例した時間を要するので、低周波数になるほど時間がかかる。また低周波数域に必要な情報が多いということもある。そんなことで測定対象は基本的には時間変化が無いか(定常的な)、小さなものということになる。一定なら電流が流れていても構わない。
参照電極を用いる3極方式なら作用電極のインピーダンスと未補償溶液抵抗だけが入ってくる。対極と参照極を結合した2極方式だと対極のインピーダンスも含まれてくる。従って、対極のインピーダンスは小さくするのが望ましい。
等価回路モデルによる解析には多義性という特徴がある。ユニーク性が低いとも言える。異なる等価回路でも、そこそこ実験結果に近いシミュレーションが得られるということである。このような難点にもかかわらず、多くの分野で多用されているということは、等価回路モデル解析の独自の有用性を反映しているといえよう。これまでの蓄積があるわけですし、科学的センスを発揮すれば正しいモデルを組み立てるのもそれほど難しくはないということだろう。
それぞれの表現形式は各々の特徴がある。例えば、ナイキスト・プロットでは周波数があらわには見えない不便さがあるが、素過程の分離の様子が、一目で見通せ、直感にやさしい。一方、ボード・プロットではインピーダンスの大きさおよび位相の変化と周波数の対応がわかるが、対数表示であるだけに、細かい変化が読み取りにくく素過程の分離具合が明瞭でなくなりやすい、直感に訴えにくいという面はあるかもしれない。目的に合った表現形式を選べばよいわけで、臨機応変に考えたい。
電極活性あるいは触媒活性を増加させるためには電極表面や触媒表面を増やしてやると考えるのは自然の方向である。ポーラス電極はこのような要請からでてきたものだが、昨今の燃料電池やバッテリー、キャパシター、さらには腐食、等々、ポーラス電極が関わる分野は、大変広い。DSSCなどはポーラス電極の究極的型といえるであろう。このような分野の進歩において現象の解析は不可欠である。解析手段のひとつとして電気化学インピーダンス計測は大いに役立つと思われる。
1) Tarascon et al., J.Electrochem.Soc., 148,A851,(2001) (リチウムイオン電池について)
Delacourt et al., ibid,161, A1253,(2014) (リチウムコインセルについて)
Hombrados et al., J. Power Sources 151, 25, (2005) (PEMFCの対称セルについて)